欅坂46

考察:日向坂46 ドキュメンタリー映画第2弾 『希望と絶望~その涙を誰も知らない』

0.はじめに

普段は乃木坂のライブ演出考察を専門としている本サイトであるが、まれにアイドルドキュメンタリーの考察も行っている
今回は現在公開されている、日向坂のドキュメンタリー『希望と絶望』を見たので考察していきたい

なお筆者は日向坂の冠番組は見ているものの乃木坂と比べて熱量を持って追っかけているわけではない
そのためやや乃木坂びいきになってしまう部分や、考察が至らない部分があるかもしれないです
大変申し訳ないですがご容赦頂ければ幸いです
ただ他グループファンから見た考察も意味があるものだと思うので、本ブログに記していきたい
また考察内容には乃木坂にも通じる部分もあったので、乃木坂ファンの方も是非見て行っていただきたい

1.ドキュメンタリーの既視感~日向坂のストーリーを考察する

今回のドキュメンタリーを見て一番最初に感じた印象は「既視感があるな」といったものだった
どこで見たかといえば、乃木坂のドキュメンタリーやライブの間で挟まれる映像で見たものだった

『希望と絶望』で描かれたテーマは大雑把にいえば、「コロナ時代のアイドルの苦悩とファンとの絆」というところに集約されると思う
ただこのテーマは他のアイドルを題材にしても表現できるものだし、実際前述の通り乃木坂でもかなり表現されてきている
描き方としては『希望と絶望』はかなり感情移入できるようになっていたが、必ずしも日向坂が伝えるべきテーマかというと疑問が残る
それでもあえてこのテーマを取り上げたのは、言ってしまえばこのテーマしか取り上げようがないというのが実情ではないか
それは日向坂46のストーリーに起因すると思う

日向坂の今までのストーリーを大雑把にまとめると、「ひらがなけやきという不遇の時代を過ごした少女たちが、腐らず努力して一流アイドルになる」というところになると思う
判官贔屓な傾向があるといわれる日本人にはとても好かれるストーリーだと思う
しかしこの手の自らを「弱者」と定義するストーリーには限界がある
グループが人気になるにつれて自分たちのことを「不遇」「弱者」と自称できなくなるため、いつまでもこのストーリーを使うことはできない
先日『約束の卵』でもうたわれた東京ドーム公演を成功させた日向坂は、上記ストーリーの大団円を迎えてしまったように思う
もはや「弱者」でなくなってしまった日向坂はそれに代わるストーリーを現段階では生み出せていないため、今回の映画では他のアイドルでも取り組めるテーマを取り上げることとなったのではないか

2.日向坂人気を考察する~他の坂道シリーズとのストーリー比較から

では他の坂道シリーズではどのようなストーリーがあったのかも考えていきたい
まずは乃木坂46の場合だが、最初は「AKB48の公式ライバル」を自称していたように自分たちを「弱者」としたストーリーを展開していた
しかし乃木坂はいつからかこのストーリーをぱたりとやめて、「引っ込み思案な女の子が仲間を得て強くなる」というストーリーにシフトしたように思う
(体感だが2013年ごろからシフトをはじめ、西野七瀬センター時代に確立されたように思う)
このストーリーは自分たちが「弱者」でなくなっても使える普遍的なストーリーのため、今でも脈々と受け継がれているように思う
そしてこのストーリーに魅せられた私は、推しメンが卒業しようが乃木坂から離れられない
おそらくほかにもそういった方がいらっしゃるのではないか
この醸成させてきたストーリーこそが、乃木坂の唯一無二の強みだと思う

一方欅坂46は最初から「弱者」のストーリーをとらなかったように思う
それは『サイレントマジョリティー』によって「社会・大人への反抗」「フォーメーションダンス」という明確なストーリーやストロングポイントを手に入れたので、「弱者」のストーリーを取り入れる必要がなかったからであるように見える
このストーリーは大成功し、解散後の今多くのファンがなおこのストーリーに魅せられつづけるという意味で欅坂は伝説になったのだろう
(ただし、このストーリーに縛られて各メンバーが苦しんだようにも見えるので一長一短ではあるのかもしれない…)
そして櫻坂はこのストーリーから良くも悪くも解放されて、新しいスタイルを模索しているところにみえる

さて今回の本題の日向坂だが、乃木坂/欅坂とはかなり様子が異なる
日向坂のストーリーは前述の通りいわゆる「弱者のストーリー」で、ストロングポイントも「明るく前向き」というかなりアイドルにとって一般的なものにみえる
(きっと日向坂ファンにとっては紡いできた歴史があるので単なる「弱者のストーリー」にまとめられるのは抵抗があるとは思う。後述するが私も乃木坂2期生が好きなので、気持ちはわかる。しかし乃木坂/欅坂の方が外から見た時にグループのカラーやストーリーが分かりやすいというのは言えるんじゃないかな。)
つまりおそらくは日向坂人気はグループのストーリーというシステム面でなく、メンバーの魅力という点に依存度合いが高いのだろう
特に大ヒットした曲があるわけでもないのにメンバー個々人の力だけでここまで人気が出たというのは、純粋にすごいと思う
ただ現メンバーが卒業した時のことを考えると、しっかりしたストーリーがないとあっけなくファン離れを起こすんじゃないかな…
ここ1・2年が日向坂にとっては特に勝負の年となるのだろう

3.日向坂46と欅坂46について

また日向坂46も忘れがちだが欅坂46の遺伝子を受け継いだグループなのである
その欅坂のDNAが案外色濃く残っている印象を映画から受けた

富士急ライブや『君しか勝たん』チアなど、パフォーマンスの全力感を求めてメンバー・スタッフ一丸となっているところが映画でも節々に現れていた
このパフォーマンスへのこだわりは、魅せ方こそかなり異なるが欅坂の映画で感じたものにとても似ていた

ただ下記の記事でかなり詳しく展開しているが、パフォーマンス重視というのはかなり危うさを孕む特性である
(乃木坂はどうやらこの記事で考察した方向性にはいかなそうだが…)
考察:『Actually…』なぜ乃木坂史上最大の問題作なのか

現在のところ日向坂はパフォーマンス重視したとて仲間を切り捨てる方向には走らないように見えるが、その分グループ活動へのコミットが求められかなりハードに見える
(実際、加藤史帆がフラフラになっている様子が映画でも描かれていた)

ここは同じ坂道シリーズでも、乃木坂とはかなり文化が異なるように見える
乃木坂はアンダーメンバー中心にグループとは離れた活動(舞台など)に多くリソースを割くメンバーがいるが、そういった生存戦略は日向坂だと難しいんじゃないかな
パフォーマンスレベルと外仕事はトレードオフの関係になることも多そうなので、その辺は一長一短だね…
(どちらも両立した生田絵梨花という超人はいるが、あの人の体力は化け物なのであまり参考にはならない気がする…)

4.乃木坂46と弱者のストーリーについて

最後にこのサイトは乃木坂46考察サイトなので、先ほどからキーワードとなっている「弱者のストーリー」と乃木坂46の関係に触れたい
乃木坂46全体としては前述の通り「弱者のストーリー」からうまいこと転換していったが、たまに「弱者のストーリー」が顔をのぞかせる節がある

一つめに思い浮かんだのが乃木坂2期生である
よく言われている「不遇の2期」という言葉に表されるように、2期生全体のストーリーとしてはどうしても「弱者のストーリー」として表現されがちだ
ただ2期生ファンとしては、彼女たちを一言で「弱者のストーリー」とまとめるのはかなり抵抗がある
伊藤純奈が舞台女王となり、伊藤かりんが将棋を極め、新内眞衣が有楽町の女となり、そして山崎怜奈はクイズに歴史にラジオにと坂道外仕事マスターになった
ここまで個性的な才能開花は「弱者のストーリー」範疇にとどまらないようのではないかとすら思う
(とはいえ思い出補正が強いので、外から見たら「弱者のストーリー」にみえるのかな…)

二つ目はアンダーライブである
こちらはわかりやすく選抜制構造に立脚した「弱者のストーリー」をとっているが、かなり中身は移り変わっている
従来は選抜に入りたいという各メンバーの思いから、かなり熱気あふれるライブをしていた
しかし選抜・アンダー間の流動性がなくなってアンダー→選抜の門戸が狭まり、選抜入りを目指すストーリーはやや無理が生じた
そこで29thシングルアンダーライブのアンダーライブを東京ドームでやりたいという発言に顕著だったが、アンダーライブ自体を大きくするという方向に舵を切った
乃木坂46 29thSG アンダーライブDay3考察 2022/3/27
発言自体はとても心震えたのだが、冷静になるともしアンダーライブin東京ドーム構想が叶ってしまったらそのあとはどうなるのだろう…?
アンダーライブが「弱者のストーリー」の限界を突破できることを切に願う

三つ目だが乃木坂全体でも最近ファン離れへの危機感なのか、「弱者のストーリー」への回帰の兆しが見られるのではないか
以下の真夏の全国ツアー広島公演の記事に詳しく記載している
考察:乃木坂46 真夏の全国ツアー(全ツ)広島公演Day1 2022/7/23
個人的には乃木坂はもうがっつり特徴があるグループのなので今更弱者のストーリーへの回帰の必要性を感じないのだが…
今後どのような展開がありうるのか、引き続き注視していきたい

考察:『Actually…』なぜ乃木坂史上最大の問題作なのか

0.はじめに

ここ数回のライブ考察記事で触れてきたが、『Actually…』を私は史上最大の問題作としてとらえている
しかしこの問題意識をうまく伝えられていない気がするので、テーマ考察として取り上げたい
なお『Actually…』考察は下記の記事でも触れているので、良ければこちらも読んでいただきたい
・2022/2/23 10th Anniversary 乃木坂46時間TV スペシャルライブ
・2022/3/15 乃木坂46の「の」 presents 「の」フェス

1.序論~危うさの本質は中西アルノか?

初めて『Actually…』のパフォーマンスを見た時、危うさの本質を私は若干見誤っていたように思う
どうしても中西アルノちゃんに目が行ってしまい、乃木坂変革の黒船として乃木坂をぶっ壊しにきたのかと感じた

運営側の意図はわからないが、しかし本当に彼女だけで乃木坂の雰囲気をぶっ壊すことなどできるのだろうか?
乃木坂に限らずアイドルの歴史を振り返った時、グループが売れた後に空気を一変させるメンバーが入ってきたことはほぼないと思う
アルノちゃんの引き込まれるような才能は確かに魅力的であり29枚目シングルではとても目立っているが、30thシングル以降も空気をガラッと変えられるかというとやや疑問符が付く

その後アルノちゃんは休業し「シブヤノオト」や「の」フェスで飛鳥・山下のダブルセンター(個人的にはフォーメーションが目まぐるしく変わるダンスゆえに飛鳥・山下のダブルセンターというより不在に見えたと話していたが、公式でダブルセンターと言っていたので訂正する)で『Actually…』のパフォーマンスは披露されているが、それでも私にはこの楽曲が引き続き危うさをはらんでいるように見えた
もしアルノちゃんが危うさの本質なら、休業後のパフォーマンスがそうは見えないだろう
そこで私は考えた

『Actually…』の危うさの本質は中西アルノではなく、この曲のパフォーマンスそれ自体なのではないか

2.本論~他アイドルとの比較で考える

『Actually…』最大の売りは本格的なフォーメーションダンスである
アルノちゃんの休業に伴いセンターをクローズアップするかという点は大きく変わったが、かなりこだわりがないとできないレベルのフォーメーションダンスであることには変わりない

しかしこのハイレベルなフォーメーションダンスこそが、私には危うさの本質であるように見える
なぜなら秋元系アイドルがパフォーマンスを重視すると、歪みが生じてしまうことが多いからである
以下では他アイドルの例も参考にしながら、パフォーマンス重視がなぜ歪みを生んでしまうか・乃木坂に当てはめるとどうなるかを考察していく

①SKE48の場合

秋元系で最初にパフォーマンスに力をいれていたアイドルと言えば、SKE48が思い浮かぶ
かつてSKE48のファンであった私は、2013年の選抜常連組を含む8人同時卒業発表という異常事態には正直ショックを隠せなかった
この事象にもパフォーマンスを重視する文化が絡んでいるとみている

秋元系アイドルの多くはシングル表題曲を歌うメンバーを決める選抜という制度がある
パフォーマンスの重視の文化では、パフォーマンスレベルが高いものが選抜に選ばれるべきと思うメンバーが出てきても不思議ではないだろう
(実際にこちらの記事にあるように、振付師牧野アンナが特定メンバーについて上記のような分析をしている)
しかし選抜というのはパフォーマンスだけで決められるわけではない
特に若手の有望株については運営側は積極起用したいはずである
しかし新入りメンバーのパフォーマンスレベルは既存メンバーと比べて高くないことが多く、彼女たちが選抜されていくことは一部のパフォーマンス重視メンバーのモチベーションを低下させ空気が悪化することを容易に想像させる
そうして選抜を外れたメンバーは外仕事に目を向けるが、こちらの記事にあるように外仕事に関連する運営側のまずい対応などもあり大量卒業につながったというのが真相ではないか

またパフォーマンス重視ということは、心身の不調が卒業につながりやすいという特徴もある
実際に平松可奈子は卒業の直接的な理由にけがを挙げている
パフォーマンスにここまでのこだわりを持つ集団でなければ回復を待つこともできただろうが、空気的にも本人的にもそれは許されることではなかったのだろう

確かにSKE48のパフォーマンスレベルは高かったし、ファンもそれを望んでいた
しかしそれが結果としてメンバーとの別れの一因となったのなら、それは皮肉なことである

②欅坂46の場合

次にパフォーマンスを重視する集団として印象深いのは欅坂46である
こちらについては同じ坂道シリーズということもあり、活動休止に至るまでの顛末は記憶に残っている人も多いのではないか
ドキュメンタリー映画『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』でも活動休止までの真相が多く語られているが、私はこちらの主因についてもパフォーマンス重視の文化があったと考えている

映画内でもかなり多く語られていたが、欅坂のアイデンティティはフォーメーションダンスで魅せる圧倒的なパフォーマンスであった
このフォーメーションダンスというのが、全員の息を合わせる必要がありなかなかの曲者である
欅坂は最後まで1期生による全員選抜制度が根付いていたが、パフォーマンスにおける不確定要素を減らすためだったように思う
ただし全員選抜という聞こえの良い言葉とは裏腹に、ひらがなけやきの扱いが難しくなるなど風通しを悪くする側面もあったように思う

平手友梨奈の脱退にもパフォーマンス重視の文化が影響していたように思う
脱退前には『10月のプール』のパフォーマンスに納得がいかずMV撮影現場に現れない姿などが語られていたが、こちらも2期生をパフォーマンスに加えようとしたことからレベルを下げざるを得なかったと考えられる
そしてモチベーションを失った彼女が行きつく先が脱退だったのではないか
さらにフォーメーションダンスの核である彼女を失ったグループは活動休止&改名というところまで追い込まれてしまったのだろう
(現在の櫻坂46もフォーメーションダンスにはこだわりがあるようだけど大丈夫なのだろうか…)

またSKE48同様にパフォーマンスへのこだわりはメンバーの卒業にもつながっている
鈴本美愉の卒業はこちらの記事にもあるようにパフォーマンスに心身が追い付かなくなったという理由で卒業している

一例だけなら単なる偶然で済まされるかもしれないが、SKE48・欅坂46ともに少なからず問題があったということは秋元系アイドルにとってパフォーマンス重視するというのは諸刃の剣になりうることを証明しているように思う
なおこれらのグループのファンは少なからずパフォーマンスに魅せられており、パフォーマンス重視が必ずしも悪いことばかりではなかったことは補足しておく

③ハロプロ・K-POPの場合

同じパフォーマンス重視のアイドルでもハロプロやK-POPでは目立ったほころびはないように見える
なぜ秋元系アイドルだけがパフォーマンス重視すると歪みが生じるのかという疑問はありうる
しかしこれらのアイドルグループはパフォーマンス重視でもグループが耐えうる条件がいくつかあるように思う

まずは人数である
これらのアイドルは多くても10人程度であることから、選抜だけでも20人前後いる秋元系アイドルよりはメンバー間のパフォーマンス実力差は小さいと考えられる
その分パフォーマンス実力差からメンバーの不和は生まれにくいだろう
そして少人数であれば楽曲による選抜制度も設ける必要がなくなり、選抜制度と相性の悪いパフォーマンス重視を採用しても問題ないのではないか

またこれらのグループは結成時点から一定以上のパフォーマンスを求めているため、そもそもパフォーマンスできないメンバーがグループにいることは想定する必要がない
K-POPではオーディション時点からパフォーマンスレベルを重視するし、ハロプロは研修生制度があり一定以上実力をつけないとグループに配属されない
グループに入ってからパフォーマンスを一から身に着ける秋元系とは思想が異なるのだ

これらの要因から秋元系アイドルのみがパフォーマンス重視と相性が悪いと考えており、非秋元系を持ち出して反論するのは適切でないと考える

④乃木坂46に当てはめた場合

ここでは『Actuallly…』をきっかけにして乃木坂にパフォーマンス重視の文化が根付いたと仮定して、どのようなことが起きるか想像してみたい

乃木坂の基本ストーリーは「内気な女の子が仲間を得て強くなる」だと思う
しかしパフォーマンス重視というのはSKE48や欅坂46のように、パフォーマンスができない仲間を切り捨てるという側面があるのは否めない
この仲間の切り捨ては乃木坂の世界観ではありえなく(むしろ現在は誰一人見捨てない世界線にみえる)、言ってしまえばストーリーの180度転換となってしまう
これが『Actually…』のパフォーマンスを見て、「乃木坂が壊れるかもしれない」と私が思った理由である

パフォーマンスレベルが上がるというメリットとデメリットを比較したとき、乃木坂ファンはどちらをとるだろうか
私はストーリーに共感したものなので、この方向転換は少なからず抵抗がある
また仮にパフォーマンスのレベルを下げないためにメンバーが卒業すると決断したとき、乃木坂にそんなものは求めていないと受け入れがたく感じるファンも多いのではないか

3.結論~危うさの本質と展望

以上のように『Actually…』のパフォーマンス重視路線は結果としてメンバー切り捨てにつながりストーリー転換をもたらす可能性があることが、この楽曲を乃木坂史上最大の問題作に仕立てる本質的な危うさだと考えている
しかし今まで仲間を大切にする文化を築いてきた乃木坂ちゃんたちであれば、仲間の輪を保ちつつもこの曲を演じ切ることができるのではないかという期待もある
私には今こそ乃木坂らしさの真価が問われる時が来ているように見える

またプラスにとらえればファン自身も『Actually…』をきっかけに乃木坂らしさを考えなおすきっかけになったのではないか
私も優しい世界観、パフォーマンス時の表情、築き上げた数々の思い出など魅力を再確認することができた
雨降って地固まるという展開を願い、筆をおこうと思う

4.アルノverMVを見て(2022/3/23追記)

アルノverのMVを見て、補足したいことがあるので追記する
危うさは尽きないが、現メンバー(特に1・2期生)を信頼したいと思える内容だったためである

本文ではパフォーマンス重視の危うさについて語ったが、やはり制作側はアルノちゃんを象徴として変革を起こしたいという思いを持っているようでその危うさも間違えなくある
MVを通して、主要3キャストは以下の描かれ方をしていた

  • アルノ…突っ張っている新参者。
  • 山下…今の乃木坂の中心。変革を拒む。
  • 飛鳥…山下とアルノの間を取り持とうとする。

ただ危うさだけでなく、希望も見えるMVだったように思う
ここに各期の補助線を引くと、以下の役割が期待されているように見える

  • アルノ(5期生)…変革の象徴。受け入れてもらえない。
  • 山下(3・4期生)…今の乃木坂の中心。変革を拒む。
  • 飛鳥(1・2期生)…大ベテラン。現メンバーとアルノをはじめとする新参者の間を取り持とうとする。

どのような結果になるかはわからないが、3・4期加入時とは違い5期生には変革の起爆剤になる役割を求めているようだ
これは堀ちゃんが『バレッタ』のMVの最後で白石さんを銃で撃つのと少し被る
バレッタのときはグループが大きく変わることはなかったが、その代わり1期vs2期といった構図になり2期生不遇問題につながってしまった

しかし『バレッタ』のときとは大きな違いがあると思う
MVでも描かれているが新参者と現メンバーの間を取り持つ余裕がある大ベテラン(1・2期生)の存在である
パフォーマンス面や制作側の意図など、『Actually…』にまつわる危うさを語ったら尽きることはないのかもしれない
それでも乃木坂をつくり守ってきた彼女たちを私は信じたいと思う

5.着地点~1年後から振り返る(2023年追記)

この記事を振り返って、手前味噌ながら振り切った面白い考察をしていたなと思う
一方で結果から振り返るとこの曲によってグループが壊れることも、大きく変わることもなかったように思う

その理由は一言でいうと、ライブを通じて『Actually…』が弱毒化されていったからだと思う
本論の振り返りにはなるがハイレベルなフォーメーションダンス、ひいてはそこから生じうるパフォーマンス重視の文化に、私はこの曲の危うさを感じ取っていた
初披露やシングル発売時に見られた独特の緊張感とガチガチのフォーメーションダンスからは、その方向性は見出しうるものであったと思う

しかしその後のこの曲をめぐる展開は私の想像とは全く異なる方向へ進んだ
まず10thバスラや夏のツアーを通じて、この曲のパフォーマンスがそれほど重視されなくなってきたように思う
その代わりに光や映像の演出をゴリゴリに足すことで、格好良さを引き出す方向にシフトしていた

これの功罪は非常に判断が難しい
言ってしまえばパフォーマンスレベルを誤魔化すという形なのかもしれない
(正直筆者にはダンスのセンスはないのでダンスが上手いのか下手なのかいまいち判断がつかないが、あそこまで演出足すなら下手でもバレなくねとは思う…)
一方でそれほど練習リソースを割かずに、新たな側面を見せることはできるので大変合理的だとは思うしそもそも多くの乃木坂ファンはパフォーマンスレベルをそこまで求めてないようにも思う

ただ一つ言えるのはその後も本記事で懸念していたような、パフォーマンス重視の文化は根付かなかったように見える
先述の通り『Actually…』自体がパフォーマンスレベルを求められる曲でなくなったのと、30thの『好きロック』が全く異なる系統の曲で高パフォーマンス路線が続かなかったことが要因だろう
そのため良くも悪くもこの曲による化学変化は感じなかったというのが私なりの着地点となる

完全に外れた考察なので恥ずかしいが、自戒の意味も込めて記事自体は残しておくこととする

2022/2/23 10th Anniversary 乃木坂46時間TV スペシャルライブ

0.はじめに

皆さん、46時間プラスアフターパーティーお疲れ様でした!
ライブが衝撃すぎて消化するのに時間がかかりましたが、一晩明けて記事にまとめたいと思い筆をとっています
ライブを今回最優先でまとめますが、残りは後日書こうと思うのでよかったらそちらも読んでやってください
ちなみに現在のところ人狼考察電視台考察(その他雑談含む)を予定しています

また今回取り上げる内容は大いに荒れる可能性があるものだと思います
具体的には以下のような批判が考えられます

・グループの方向性に文句を言うな、嫌なら黙ってオタ卒しろ
・新しい取り組みを否定するな停滞につながる

先に弁解しておくが、本記事に文句・否定の意図はない
是非を述べる意見書ではなく、グループの変化の方向性を予想するエンターテイメントとして本記事は捉えていただきたい

ただし私が46時間テレビ以前に予想、もっというならば期待していた方向性から大きく外れる可能性が高いなと思っているのは事実である
それでも本当に方向性が大きく変わるのか、または変わったところで悪い方向に向かうかはまだ誰にも分からない

1.全体の感想

『Actually…』とにかく衝撃的で、それまでの45時間がすべて吹っ飛ぶレベルだった
乃木坂史上最大といってもいいほどの黒船が来たように思う
以下、ポイントを絞って振り返っていきたい

2.セットリスト

全体として王道展開だったからこそ、最後の『Actually…』の異物感が非常に際立った

M00  Overture
M01  他人のそら似
M02  おいでシャンプー

MC①(全体)

M03 キスの手裏剣
M04 三番目の風
M05 走れ!Bicycle

MC②(梅ちゃん、飛鳥、真夏さん、あやてぃー、レイちゃん、かっきー)

M06 日常
M07 口ほどにもないKISS
M08 僕は僕を好きになる
M09 ごめんねFingers crossed
M10 Sing Out!

MC③

M11 Actually…
MC④
M12 乃木坂の詩

3.振り返りポイント

①M10までの王道セットリスト

M10までは10周年らしいセットリストだった
いかにも乃木坂らしい世界観の選抜曲、ゴリゴリのダンスナンバー『日常』・一周まわって可愛らしい『口ほどにもないKISS』などバラエティにとんだアンダー曲、各世代の若き日を思い出させるような期別楽曲と王道ど真ん中な構成だった
まさかこのセットリストがこのあとのフリになっているとは…

②『Actually…』~乃木坂史上最大の問題作

乃木坂シングル史上最大の問題作
センターのアルノちゃんがクローズアップされるような構成となっており、ほかメンバーがバックダンサーのように見えた
曲調も今までの乃木坂にはない、攻撃的な感じ
存在感があるアルノちゃんにこの曲をやらせたいのはわからんではないが、それにしても異質
この前までのセットリストがザ・王道だったから、なおさら異物感が際立った

この曲を聴いたとき本能的に「乃木坂が壊れるかもしれない」という危機感を感じた
Twitterでも「乃木坂らしさ」というワードがトレンド入りするほどだったので、私だけの反応ではないと思う

以前から新世代のメンバーをセンターに迎え入れる文化が乃木坂にはあったが、これほどまでの異彩を放つことはなかった
『逃げ水』のよだももや『夜明けまで強がらなくてもいい』のさくちゃんは支えてあげたい乃木坂らしいキャラクターだったから違和感なかった
唯一『バレッタ』の堀ちゃんは多少の異物感があったが、ここまでセンター一人を際立たせる構成にはなっていなかった
それだけに今回のアルノちゃん(本人のキャラはまだわからないけど、『Actually…』の象徴としての彼女)は今までの乃木坂のイメージを完全に覆すための刺客にすら見えた

私は乃木坂はコアファンからの人気を得ており、似たようなメンバーをとることで持続していくコンテンツだと思っていた
(上記の詳細は『考察:乃木坂46は国民的アイドルなのか~楽曲とメンバー構成から考える』の記事をぜひ参照いただきたい)
それだけにイメージを根底から覆しにいく『Actually…』は私の予想と完全に真逆で、衝撃的だった

ではこのシングルで表現したように見えたものとは何か
一言でいうと「欅坂46感」だったように思う(あえて「櫻坂」ではなく「欅坂」と記載する)
いかつい曲調と歌詞、センターを中心にクローズアップするフォーメーションダンスにアルノちゃんの表現力が平手友梨奈と被るところがありこのように見えたのだろう
(あらためて平手友梨奈と比較されるとかアルノちゃんすげえな…)
Twitterでも「平手友梨奈」というワードがトレンド入りするほどだったので、こちらも決して私だけの反応ではないと思う
そして先述の通り「乃木坂らしさ」が議論されるなど、一部(というより私には大半に見えるが)ファンが望んでいた方向性とはかなり離れたものとなっているのではないかと思う

③なぜ乃木坂を壊す必要があったのか~仮説を立てて考える

ここでよりマクロな視点に立ち「なぜ乃木坂を壊す必要があったのか」をいくつか仮説をたてて考えていきたい
どれか一つだけが正しいのではなく、いくつかが混ざり合っているのではないかと思う

1.中西アルノへの惚れ込み
よく言われることだが、大なり小なりあると思う
アルノちゃん魅力的だしね
ただそれでも「本当にそれだけか?」とも思う
例えばアルノちゃんが2期生や3期生加入の時期に入ってきたとして、同じことが行われただろうか?
まいやんやななみん、なぁちゃんほか1期生が多くいるときにそんな売り出し方をするのは想像しにくいように思う

2.欅坂の亡霊を追っている
ネットでよく見る論調ではあるが、単にそれだけならば櫻坂でやる方が自然ではないだろうか?
乃木坂で行うべき必然性がこれだけだと見いだせない

3.国民的アイドルを目指すため
比較的合理的な理由として、「乃木坂が最も近いが、現在の乃木坂では成し遂げえないものを達成するため」という理由が考えられる
そのうちの一つが、先ほど紹介した記事でも考えた「国民的アイドル」という概念である

しかしこれはおそらくないと思う
上記記事では楽曲という要素についても考察しているが、少なくとも国民的アイドルが持ち合わせるようなキャッチーさが『Actually…』からは感じられない
(というより比較される「欅坂46」についても基本は別路線のカルトコンテンツだと認識している。このアイドル史観は別途考察記事としてまとめたい。)

もうひとつ国民的アイドルの持つ要素として「メンバー構成の多様化」を挙げているが、こればかりは5期生のキャラクターがわからないので何とも言えない
強いて言えば井上和ちゃんとかは、今までの乃木坂にいないタイプの見た目だなとは思

4.海外進出の可能性
「乃木坂が最も近いが、現在の乃木坂では成し遂げえないもの」でもう一つ思いついたのがこれである
古くはAKB48、乃木坂も2017年ごろに目指していたが成功したとは言いがたいのが海外進出である

こちらの記事をはじめ一般に良く言われることだが、海外で売れるためにはパフォーマンスがハイレベルであることが求められる
定量的評価は難しいが、言語が通じないためパフォーマンスで分かりやすく魅せる必要があるというのは妥当だろう

一方で乃木坂の武器を振り返るとパフォーマンスというのは決してレベルが高いとは言えないらしい
(私はパフォーマンスに無頓着なので、一般にそういわれるよね程度しか実感はない)
さらに秋元系アイドル(特に乃木坂)が得意とする、ハイコンテクストな文脈が生み出す感動は言語が違う消費者がそこまでたどり着くのは難しいように思う

しかし今からパフォーマンスのレベルを上げるにしても、韓国アイドルとキレキレダンスでバチバチに戦うのは難しい
そこで世界の市場の空白を突くための武器が、欅坂で行われていたようなフォーメーションダンスだったのではないか

しかし「なぜ櫻坂ではなく乃木坂で海外進出を狙うのか」という疑問がそれでも残る
その回答については「日本のNo.1アイドル」という箔が必要だったのではないかと推測する
本当にこの予想が正しければ運営はかつての欅坂と同じ方法でテコ入れしていくだろう
その場合似たコンセプトの櫻坂46が見捨てられたような形となるのだが…

5.割とうまくいってたけど、単に乃木坂を運営するのに飽きた
1~4それぞれ考えてきたが、実は一番の主因ってこんなところなのではないだろうか
現在の乃木坂は似たようなメンバーを入れて、一部の熱狂的なファン層が離れずに応援し続けるいわば「完成されたコンテンツ」になっていると思う
よく言えば「手がかからない」が、運営する立場からすれば「面白くない」とも見えるかと思う

そこに明らかな異分子がいたから試しにぶつけてみようといった感じなのではないか
(こちらのベストアルバム特典映像考察の記事でも記載しているが、トライ&エラーは乃木坂でも行われたいわばよくある手法である)
かなり雑だなとは思うが、『バレッタ』のときのような化学反応に期待したい
またその時とは違ってバランサーとなる余裕がある1・2期がいるのもどう作用するのだろうか
29枚目はひたすら過激な方に振ったが、多少なじんでくるであろう30枚目以降どのような変化が起きるのか引き続き見ていきたい

④中西アルノについて

冒頭にも述べた通り、私は今回の記事で何かを否定したり文句を言う意図はない
特にアルノちゃんには何らマイナスな感情がないことは重ねて申し上げたい

そもそも『Actually…』だけの印象でアルノちゃんのことを語るのはややナンセンスだと思う
実は私は5期生お見立て会に現地参戦していたのだが、お見送りに当たったメンバーがアルノちゃんだったのである
事前映像でもかなりクールそうな印象だったが、お見送りの時に見せた人懐っこい笑顔はいい意味でずいぶんギャップがあった

こんな調子できっと我々がまだ見ていない側面が彼女にはたくさんあるのだろう
従って私は『Actually…』だけの印象で彼女を判断したくはない
乃木中とかに出てくるのも楽しみだな

4.少しだけ私見

ここからは完全に考察ではなく私見である
私のような考察マニアにとっては、久々に考察しがいのある骨太なテーマで本当にぞくぞくした
一方で乃木坂に共感しそのアイデンティティに惚れた私は、もしかすると乃木坂が完全に壊れてしまうのではないかという不安を持っていたりもする
いずれにせよまだ何もわからないというのが本音なので、引き続き注目していきたい