考察:乃木坂46の曲の価値を考える~僕たちはなぜ『アナスターシャ』で泣くのか

    1.はじめに~乃木坂スター誕生ライブでの感動と疑問

    5期生のスター誕生ライブが開かれるということで改めて思い出したが、4期生のスター誕生ライブは本当に良い時間だった
    音楽にスポットを当てたからこその上質なパフォーマンス、先輩メンバーや大物ゲストのド迫力…
    開催から数か月たった今でも鮮明に思い出せる、本当に良ライブであった
    詳細については以下の記事をご覧ください
    ・考察:乃木坂スター誕生!LIVE (昼・夜公演)2022/6/26

    一方でいわば「借り物」の曲でここまで盛り上げることができるのであれば、乃木坂の曲の価値って何なんだろうと思った
    例えばスター誕生ライブで弓木ちゃんが歌っていた『EZ DO DANCE』よりぶちあがる曲が、乃木坂46のライブにはいくつあるのだろうか?
    正直『ガールズルール』くらいしか確信をもって答えられない自分がいた…

    それでもぶち上げることのみが曲の価値ではない
    『きっかけ』『思い出ファースト』など、感動を誘う曲は乃木坂にも少なくない
    なかでも二期生推しの私としては『アナスターシャ』が流れると思わず泣いてしまうほどである
    今回はこの『アナスターシャ』を題材に、なぜ乃木坂の曲で私たちは感動するのかを考察していきたい

    2.本論~僕たちはなぜ『アナスターシャ』で泣くのか

    ①歌詞について

    曲で感動させる要素として、真っ先に多くの人は歌詞を思い浮かべるのではないか
    きっと多くの人は一度くらい歌詞に救われたことがあるだろう
    例えば私もMr.Childrenの『終わりなき旅』の歌詞に高校時代心が折れそうになる度に救われた

    それでは『アナスターシャ』の歌詞はどうか
    正直言うと私はアナスターシャの歌詞がわからないのである

    理解しようとは人並以上にしたと思う
    もしかしたら背景になっているのかと思ったので、ディズニー映画『アナスタシア』を見た
    教養が足らないのかと思ったので、ロシア皇女アナスタシアについても勉強した
    『アナスターシャ』の歌詞考察も複数読んで、歌詞のどの要素が何を暗示しているのかなど考えた
    それでも結局のところ、しっくりとくる理解はついぞ見られなかった

    ここにいたって『アナスターシャ』の歌詞は実はほとんど感動に寄与していないのではないかと考えを改めた
    すんなり入ってこない歌詞に涙腺が緩むのはそもそも考えにくい
    そして『アナスターシャ』はかなり歌詞が難解なので典型的だが、実はほかの乃木坂の曲も同じなのではないか
    例えば『きっかけ』の歌詞を本当のところどれだけのファンが消化しきれているだろうか
    いいこと言っている風なことはわかるのだが、本当にその真髄を理解しているかと言われると私は自信がない
    『思い出ファースト』の歌詞も改めて考えると恋愛に終始している
    こう考えると少なくとも乃木坂については、歌詞が感動を呼んでいることは実は稀なのではないか

    ②曲調について

    歌詞以外の要素としては曲調というものが考えられる
    『アナスターシャ』『きっかけ』『思い出ファースト』、いずれもあまりにもエモい曲調ではあるので少なからず寄与しているだろう

    とはいえこれも本筋ではないのではなかろうか
    例えば僕たちは『ガールズルール』で泣いたことは本当にないだろうか?『インフルエンサー』では?
    少なくとも私はたまにこれらの超がつくほどのアップテンポ曲で泣きそうになるときがある
    したがって曲調も感動に寄与する側面はあるものの、感動の本質ではないと考えるのが自然ではないだろうか

    ③「景色」と「思い入れ」

    こう考えると実は曲の構成要素の中には感動の主要素はないのではないか
    それではこれらの曲の何が私たちを感動させるのか

    ここで一つ示唆的な話をしたい
    私は『アナスターシャ』がこの上なく泣ける曲だと思っている
    ただしこれは1期生しかほとんど知らない友人にこれを言ってもほとんど要領を得ない
    つまり人によって聴いた感覚がかなり違うのである

    この差はずばり見てきた「景色」であり、ハイコンテクストな文脈の中で醸成された「思い入れ」なのではないか
    確かに『アナスターシャ』を聴いたときに僕が想像するのは、歌詞にあるまだ見ぬロシアの地や異国の王女様ではない
    むしろ擦り切れるほど見た伊藤衆人監督の思い入れに溢れたMVであり、2期生ライブで先輩に同期に後輩に見送られるドレス姿の推しメンであり、苦難の日々を乗り越え確かな芯の強さを手に入れた二期生の感情のこもったパフォーマンスである
    これは2期生の歴史を見てきた人にしか決してわからない感情だろう
    (完全に余談だが、アナスターシャMVの考察はこちらの記事が素晴らしい。私の記事ですらないが、初めてこの記事を読んだとMVのストーリーの理解がぐっと深まり改めて感動したので是非。)

    また前項までの歌詞や曲調すらも、「景色」や「思い入れ」とリンクする
    海外の王女というテーマは謎めいたイメージが強いセンター堀未央奈のイメージにぴったりだし、ロシアはこの曲が最後の参加となる佐々木琴子が好きだった国である
    また『アナスターシャ』までの2期生曲は、『かき氷の片想い』『ライブ神』『スカウトマン』と少々エキセントリックでマニアックな印象を受ける曲が多かった
    そのフラストレーションを一気に解消するかのような、ザ・王道の爽やかな曲調は多くの2期生ファンが待ちわびていたものであった

    それ故に、歌詞の意味すらわからない『アナスターシャ』で僕らは泣くのだ

    ④最高傑作としての『他人のそら似』

    『アナスターシャ』は典型例だが、この「景色」や「思い入れ」こそが魅力であるというのはなにも『アナスターシャ』に限ったことではない
    むしろ乃木坂の曲の真価はここにあるといっても過言ではない

    正直なところスター誕生ライブで歌った数々のカバー曲の方がライブで盛り上がることはあるかもしれない
    まして乃木坂のことをなにも知らない人にとっては、それらの楽曲の方が感動するのではないか

    それでも東京ドームでダブルアンコールの『きっかけ』を仲間に囲まれながら歌う万理華ちゃんやひめたんが目に焼き付いていれば、
    『思い出ファースト』のセンターは桃子卒業後も空けておくと3期生が言ったことを知っていれば、
    『サヨナラの意味』が流れる中後ろ手にピースして天井に消えた伝説を目撃していれば、
    これらの曲をふと耳にしたとき涙がこぼれそうになるのではないか

    そしてこのハイコンテクストな文脈が分かったうえで、個人的に最高傑作とも思っているのが『他人のそら似』である
    エモすぎる曲調はもちろん、この曲にはいろいろな体験を得て各自が醸成していく「景色」や「思い入れ」が最初から詰まっていたのである
    ダンスで言えば過去シングルの印象的な振り付けを取り入れているため当時の「景色」を思い出させるし、卒業メンバーがセンターの場合はその子と関係が深いメンバーがセンターにいたりするのも当時を目撃してきた僕らの「思い入れ」を引き出す
    歌詞にしても『僕のこと、知ってる?』を想起させる歌詞やラストを「君は君だよ」というフレーズで締めるのは、僕らが好きだった乃木坂の世界を表しているようであった
    なおこの曲の魅力の詳細については、以下の記事に詳細は譲る
    ・2021/08/21 真夏の全国ツアー2021 福岡公演Day1

    3.傍論~4期生の受難

    本論は以上なのだが、上記乃木坂の曲の真価を「景色」と「思い入れ」とした場合4期生には困難が待ち受けているのではないかと考えている

    4期生の代表曲を挙げていくと『I see…』『Out of the blue』『ジャンピングジョーカーフラッシュ』ととにかく盛り上がりを優先した曲が多い
    個人的にも良く聞く曲だし、ライブでは盛り上がるしそれぞれ当たり曲だとも思う

    それでも例えばかっきーやあやめんが卒業する時、これらの曲で私たちは泣けるだろうか?
    2期生なら『アナスターシャ』、3期生なら『思い出ファースト』のようにこれらの曲で感動できるだろうか?
    そう考えると「はい」と即答できない自分がいる
    これらの景気が良い曲は、乃木坂の曲の真価である「思い入れ」の上積みが難しいんじゃないかと思う
    そういった意味でそろそろ乃木坂らしいエモい曲を入れていかないといけないのではないだろうか

    そもそもでいえば乃木坂の文脈を知らなくてものれちゃう『I see…』『Out of the blue』『ジャンピングジョーカーフラッシュ』あたりは本来は表題曲になるべきなのではないだろうか
    これらの景気が良い曲でライトファンを集めて、乃木坂らしい期別楽曲で沼に落とすというのが本来の形のような気がするのだが…

    4.終わりに~31stシングル『ここにはないもの』初披露に寄せて

    以上のようにメンバーとファンが見てきた「景色」重ねてきた「思い入れ」こそが乃木坂の曲の真価なのだと思う
    一方で乃木坂の楽曲には盛り上がりには欠ける側面があり、景気が良い曲をよそから借りてきてバカ騒ぎするライブの楽しさを知れたという点でスター誕生ライブは本当に楽しくまた示唆的なライブであった

    最後に先日乃木坂配信中で初披露された『ここにはないもの』に触れてこの記事を締めたい
    一回しか聞けてないので詳細までは考察できていないのだが、この曲は『他人のそら似』に匹敵するレベルの傑作かもしれない

    うろ覚えだしおそらく抜けもあるのだが、この曲には過去の楽曲を思わせる歌詞を散りばめていたはずだ
    しかも乃木坂との別れを感じさせる形で…

    • カーテンはぐるぐる巻かれるものではなく、閉じるもの(『ぐるぐるカーテン』オマージュ?)
    • 裸足で未来へ向けて歩き出す(『裸足でSummer』オマージュ?)
    • 手を離すことを促す(『最後のTight Hug』で繋いだ手を離したことを後悔したのに…)
    • 青空は見えても広さここからはわからない(『何度目の青空か?』オマージュ?)
    • そばにあるしあわせより遠くのしあわせを掴もうとする(『しあわせの保護色』と対極)

    不十分な気もする(特に『サヨナラの意味』オマージュの箇所とかもあるんじゃないかなという気はしている)が、これを歌われると飛鳥ちゃんが卒業するんだと一層実感がこもってしまう…

    また何よりも『ここにはないもの』というタイトルがすごい
    乃木坂で全てを見てきた大エース・齋藤飛鳥にしか似合わないタイトルだとすら思う

    MVが公開されたら再度聴きこんで考察を深めるたいと思う
    そしてこの曲に素敵な「景色」や数々の「思い入れ」を積めることを祈って、筆を置きたい

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